〇〇は俺の嫁!~キャラクターと結婚しようとするとどうなるのか?~

 これは、4年ほど前(2008年)の学祭のために書いた「空想法律読本」風の読み物だが、今更出てきたので公表してみることにした。
 作中のキャラの選定等今となってはやや古めかしくなった部分もあるが、ご容赦願いたい。

 また、七夕の日にこんなものを投下してしまったことを予め謝罪しておく次第。


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 近時のネットでは、一般にも知られるようになった「萌え〜」というセリフの代わりに、特定のキャラクターに対する愛を表現するときに「〇〇は俺の嫁」という言葉を使うことが多くなっている。


 実際、ネット上の書き込みでキャラクターに対する愛を語らせればこの言葉が頻繁に出てくるし、去年話題になった「痛絵馬」にも、この言葉が頻繁に出てくる。

 さらに、ネット上で署名を集める「署名TV」サイトで立ち上げられた「二次元キャラとの婚姻を法的に認めてください」という署名のプロジェクトがつい先日2ちゃんねるのごく一部で話題を集めた。
 その呼びかけ文は以下の通りである。

    もはや、僕たちは三次元に興味ありません。
できるならば、二次元の住人になりたいとすら考えています。
しかしながら、現在の科学技術ではそれも実現されそうにありません。
そこで、せめて二次元キャラとの結婚を法的に認めてもらえないでしょうか?
もし、これが実現したら、企画者は朝比奈みくると結婚する予定です。

 これはもう、清清しいほどに飛びぬけているといっていい。ちなみに、現在署名数は2398人(2008年11月7日時点)で、サイトの中でもそこそこの広がりを見せている。


これが掲載された2ちゃんねるのスレでの反応はきめぇきめぇの大合唱だったのだが、ともかく、この言葉が一定の支持や広がりを見せていることは間違いがない。

 どこまで本気なのかは分からないが、少なくとも二次元上等派の皆さんであれば、これは是非認めてもらいたいものだろう。二次元キャラと結婚できるのであれば、オタクの間での嫁不足も解消するし、キャラクターとの甘い結婚生活を起こることも不可能ではない。

 ともかく、なんだか楽しそうではないか。


 と、ということで、今回は「どうすれば二次元キャラクターとの結婚が法的に認められるのか!」「仮に結婚できるとすればどうなるのか」と、言うことについて、法律的な見方から考えていこうではないか、と思う。



正式に婚姻するために


 まず、キャラクターとの結婚云々について論ずる前に、法律的には結婚がどのように位置づけられているかについて考えていこうと思う。


 法律的には、結婚は「婚姻」と言い、民法の一分野である親族法に規定されている。
 以後は、法律的な文面にのっとって結婚のことを「婚姻」と呼ぶことにする。


 そして、法律的に婚姻しようとすれば

・自然人同士であること

・婚姻障害事由がないこと(民法731条〜737条)

・お互いに婚姻の意思があること(日本国憲法24条)

・届出を行うこと(戸籍法74条)


 つまり、法律で定められている結婚できない条件に当てはまらない普通の人間同士が、お互いに婚姻の意思を示したうえで役所に婚姻を申請することによって初めて法的な婚姻が成立する事になるのだ。これを「法律婚」という。



一方、届け出を行わずに婚姻したのと同じような生活を行うことを「事実婚」と言う。


西欧諸国では比較的一般的な婚姻方法ではあるが、日本では伝統的に法律婚を重視する見方が強いので、事実婚状態では夫や妻が死んだ場合に相続を受けられなかったり、生まれた子供が法律婚をした夫婦の間に生まれた嫡出子と比べて不利な扱いを受ける非嫡出子として扱われることになる。この点については、現在も論争がおこなわれており、色々と難しいところが多い。


しかしながら、事実婚の場合本人に意思さえあれば法律の縛りは受けない。


 だから、結論から言えば、現在でもキャラクターとの事実婚そのものは可能である。キャラクターたちとディスプレイ越しにクリスマスパーティを開こうが、等身大フィギュアや抱き枕を買って夫婦同然の生活を送っている(という妄想をしている)としても、フィギュアにあんなことやこんなことをしても法律はなんら口を出さない。

 そのあたりは最大限当人の自由が保障されているからである。


そのような事実婚状態ではなく、きちんと彼らがキャラクターと法的に結婚しようとするならば、上に挙げた条件の条件をクリアする必要がある。
しかし、キャラクターは自然人ではない以上、法律上は犬や猫と同じ「モノ」扱いである。厳密に考えればこの段階で既に頓挫するため、結論から言えば



「キャラクターとの婚姻は不可能です」  尾張AA略



ということになるのだが、それではつまらないし、話が進まないのでどうすればこの問題をクリアできるよう前向きに考えていくことにしよう。


だが、相当イバラの道になるのは間違いないよなぁ、これ・・・



モノとヒトの絶望的格差

とはいえ、いきなり実体のないキャラクターと法的な婚姻を!といっても少々無理があるので、まずは「そのキャラクターが現実に存在している」と仮定した上で話をすすめてみようと思う。

ただ、世の中には女性キャラの数だけ嫁がいる、といっても過言ではない。そんなのを全員比較検討していては文字通りキリがないので、比較的メジャーなキャラの中から、法律的な性質の異なるものを抽出して検討してみようと思う。

そのうえで、抽出したのは以下の六名にすることにした。

柊かがみらき☆すた

綾波レイ新世紀エヴァンゲリオン

惣流・アスカ・ラングレー(以下アスカ)(新世紀エヴァンゲリオン

長門有希涼宮ハルヒシリーズ)

初音ミクVocaloid2

水銀燈ローゼンメイデン


これら6人はネットで「お前らの嫁はだれ?」といった類の質問では必ず名前が挙がる超人気キャラクターだが、「人間か否か」「国籍」「年齢」という点において、法律的には全く違う立場に置かれている。


そういう理由での人選なので、「おれの嫁がいない!」とか「ニコ厨乙wwww」とかそういうのは勘弁していただきたい。


 で、彼女たちが法律的にどのような立場に置かれているかというのをまとめたのが下の表である。

       属性   国籍   年齢

柊かがみ  人間   日本   18歳

綾波レイ  人間   日本   14歳

アスカ   人間   アメリカ 14歳

長門有希  宇宙人  日本    16歳(3歳?)

初音ミク  ロボット 不明   16歳

水銀燈   人形   不明   不明


 なんちゅうか、自分で選んでおいて何だが一番上が18歳ってありえないだろ、常識的に考えて・・・



 まあそれはともかく、人々から同じ嫁として扱われているのに法律的な見方から分けるとこのような差があるわけである。これが法律的にどのような差を生みだすのだろうか?

 第1に、婚姻できるのは 法律に定める「自然人」つまり、普通の人間でなければならない。


 なぜ自然人でなければならないかというと、婚姻関係を結ぼうとすれば、まず婚姻に関する規定がある民法の一つである親族法を適用し、婚姻という権利や義務を行使できるようにしなければならない。婚姻関係を結ぶことも一種の契約とみなされるからである。

 民法で規定されている権利や義務、特に婚姻などに代表される親族法上の権利は、いわゆる「身分的行為」と呼ばれ、これを行使することができるのは自然人だけ。


 つまり、結婚ができるのは外国人を含めた普通の人間だけなのである。


つまり、愛さえあれば国籍を超えることも十分可能なのだが、どんなに愛していようと、犬や猫、パソコンと結婚することはできない。これらはすべて民法においては「モノ」であり、権利の主体となって権利を行使することはできないからだ。



 第2に、年齢上の問題がある。

 法的な婚姻を行うためには「婚姻適正年齢」、具体的には女性の場合16歳、男性の場合18歳より上でなければ法的に婚姻できないのであり、これを超えていない者との婚姻をしようとしても、役所での申請の段階ではじかれる。

 ネット上には「15歳以上はババアwww」とネタで言っているのか、マジで言っているのか分からない発言があるが、そういう人はババアとしか法的に結婚できないことになるのだ、ざまあwww、としか言いようがない。

 このほかにも、重婚の禁止や近親婚などの規定があるが、ここにあげた6人は言うまでもなく未婚だし、血もつながっていないのでここでは省く。


 これを踏まえた上で改めて表を見てみると・・この中で法的な婚姻が可能なのは「柊かがみ」と、あとちょっと怪しいが「長門有希」も出来なくもない、といったところである。

 というのも、長門有希についてはいろいろと設定が入り混じっているため、やや判断に迷うところがあるためだ。


 この文章の種本ともなった「空想法律読本」(メディアワークス刊)によれば、「宇宙人も意思能力や判断能力、知能がある生物である以上人として認められ得る」と、いう風に解釈しているようなのだ。そういう意味では人として扱ってもいいのだが、正確には「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース」らしいから、これを宇宙人の範疇に入れていいものか、というのもある。

 それに「生まれてから3年間」という証言もあるので、果して16歳として認めていいのか、という微妙なところなのだ。


 とはいえ宇宙人も生物なので、現行の法律で宇宙人が人として認められるように解釈され、なおかつ高校に入学しているので(情報を改ざんした結果)適正年齢に達している、と判断されれば籍を入れることは可能だ。おそらく大多数はそっちのほうがいいだろうと思うので、そういうことにしておこうと思う。


 綾波レイとアスカの両者については、綾波レイは日本人で、アスカはアメリカ人という違いはあるものの、外国人だからと言って結婚できない、ということはない。ただ、婚姻適正年齢に達していないので、婚姻適正年齢に達するまで2年ほど待つことになる。

 それまでに死にはしないか不安であるが、まあ待てば婚姻できるようになるのだから待つこととしよう。


 問題は「初音ミク」や「水銀燈」だ。

 この両者は自然人ですらないため婚姻はまずもって不可能だし、それどころかどんなに人とのコミュニケーションをとれようが、人と同じ生活をしていようが、ロボット(正確に言えばアンドロイド)と人形である以上、現行の民法においてはどちらも「モノ」として扱われる。


 するとどうなるかというと、人ではないので「人権」は当然認められない。それどころかモノとして扱われるので、もし、自身が夫として(?)所有権を得たならば、彼女たちを自由に使用し、処分することができる。つまり、自分の所有物として認められたならぶん殴ろうが強姦しようが、極端な話ぶっ壊して廃棄することも可能だ。


 そして、自分のものである以上罪に問われることもない。民法には、自身の所有物は人に危害を加えたりしない限りは自由に処分できるという「所有権絶対の原則」が存在するためである。


 うーむ・・・法律的に検討していったら特殊な性癖の持ち主しか喜ばんような結論になってしまった。かたや籍を入れて円満な結婚生活もできようかという傍らで、こなたこんな志賀Y太真っ青のことをしてもお咎めがないなんて、不憫に過ぎるというものだろう。


 ヒトとモノ、たったこれだけの違いで彼女たちの命運はかくも別れてしまうのだ。
 彼女たちの人権を考えるのなら、このあたりの早急な法改正が望まれるだろう。



特別婚姻届で婚姻気分(笑)


 少し現実と空想がごっちゃになったような気がしたが、ともかくこれはあくまで彼女たちが実在した場合の話である。

 現実には彼女たちは当然実在していないので、現在の法律では籍を入れることは当然不可能だ。実在しないものと婚姻しよう、というのなら民法どころか古代ローマ以来積み重ねられてきた法律の規定を根底から変える必要が出てくるだろう、難儀なものである。


 そもそも、彼らの言うところの「法的な婚姻」とはどのような状態をさすのだろう?
 署名の呼びかけ文には「二次元に住人になりたい」とか「三次元には興味がない」が、「現在の科学技術は不可能なので、法的に結婚を認めてほしい」と、書かれている。


 だが、その法的な婚姻とは一体何なんだろうか?


 キャラクターと夫婦同然の生活がしたいのか、あるいは戸籍謄本に「夫・俺 妻・俺の嫁」というように登録されればそれでいいのか?それによってだいぶ違ってくるのだから、要求するならもっと明確に要求してほしいものだ。


これがもし、仮に後者のような状態で満足できるのならば、別に民法を根底からひっくり返さなくても様々な自治体が行っている「特別住民票」みたいに「特別婚姻届」みたいなもので解決できないだろうか?
 つまり、キャラクターの名前を特別な新鋭書類に書いて提出すれば、自分の名前とその名前のキャラクターの書かれた戸籍謄本の印刷物をもらうことができる、という風にすればそれっぽくなるかもしれないし、婚姻届を提出している以上、法的に婚姻したという風にできるかもしれない。


そういうわけで調べてみたのだが、実のところ「特別住民票」に法的な根拠は一切ないらしい。


 最近では「らき☆すた」の登場人物である柊一家が舞台となった埼玉県鷲宮町の住民として登録された、というのが話題になったが、その際に発効された特別住民票も、法律の上では「官公庁が発効する広報印刷物」つまり、官公庁が発行しているチラシやパンフレットと同列のモノなのである。
 だから、住民票が発行されたからといって、あの一家が鷲宮町の戸籍謄本に住人として登録されたわけではないのだ。


 つまり、特別住民票の発行に法的な根拠がいらない以上、婚姻届っぽい書類で申請した上で「夫・俺 妻・俺の嫁」というような特別住民票を、各自治体が発行することも不可能ではないのである。実際は、戸籍謄本にはなんら影響を与えない、法律上何の意味もなさない紙切れであるが、それでもそのキャラクターと入籍し、はれて夫婦となった気分は味わえるだろう。


 ただし、提出には当然一人で行くことになるし、もらうときも当然一人。
 単なる住民票ならともかく、婚姻届でこれは少しきつくないか?とは思うが、諸兄の愛さえあれば乗り越えられるだろう、と期待している。



あまりに高い人の壁


 しかし、単に籍を入れた気分を味わうだけならそれでもいいのだろうが、それだけでは満足できない人もいるだろう。
 嫁と幸せな共同生活がしたい!と本気で思っている人もいると思う。


 「夢見てないで仕事しろよキモオタヒキニートが」とか煽るのは簡単だが、これを何とか現行の法律にそんなに手を加えることなく実現する方法はないだろうか?
 私自身も彼らの思うところの理解はできないが、思考実験ぐらいならやっても罰は当たるまい。


 と、言うわけでこれまでの前提を一旦リセットし、その上で現行の法律で何とか婚姻する方法を探してみよう。

 ただ、先ほども言ったように、現在の法律では、それらのキャラクターやグッズは物として扱われるし、モノに対して民法の親族法の適用ができない以上、籍を入れて正式な夫婦になることはできないのだ。キャラクターに親族法を適用しようとすれば、少なくとも民法の規定を根本から変えなければならない。


 それに、キャラクターといってもいろんな形がある。等身大フィギュアとかならまだしも、漫画のイラストや、果ては0と1のデータでしか表現されていないものまである。そうやって考えるとどこまで民法が適用できるようにするべきか・・・ということでまた頭を悩ませてしまうわけだ。


 自然人ならば、当然三次元の存在であるから、実際に存在する人にのみ法律が適用されれば良い。写真やイラストには当然身分的行為を行うことはできないので、その様なことはそもそも想定されていないのだ。


 ・・・まてよ、ということは、自然人にしても2次元のもの、つまり自然人をモチーフにして描いた絵や写真には親族法は適用できないワケだ。いかに声優ヲタが平野綾を愛していようと、平野綾の写真とは結婚できない。


 ならば、ネット上に転がっているイラストは「三次元のフィギュアをモチーフにして書いたイラスト」ということにしてしまえばいい、なんだか本末転倒な気もするが、これで解決である。つまり、フィギュアにのみ親族法が適用できるようにすればいいんである。


 これを踏まえた上で、署名は「二次元のキャラクター」ではなく、「キャラクターのフィギュア」と結婚できるように働きかければ、まだ通りやすくなるかもしれない。

 ただ、先ほども指摘したが、そのキャラクター自身が自然人でない場合である。そのキャラクターが日本人、もっと言えば外国人も含めて普通の人間であれば問題はない。
 だが、キャラクターの中にはロボットや獣人、あるいは宇宙人や妖怪もいる。先ほども検討したとおり、これらは自然人ではないので、どちらにしても結婚できないということになってしまうが・・・



 ええい!もうだったら妖怪も宇宙人もまとめて全部自然人にしてしまえばいいじゃないか!




「空想歴史読本」などで有名な円道祥之氏だって「宇宙人もロボットも含めて「すべての生命を平等に扱おう!」というぐらいの寛容さがなければ」といっている。これにのっとって、獣人や宇宙人も自然人に入れてしまおう。こうすればすべてのキャラクターを余すことなく嫁にすることができる。



そして、国会の議決を経て、自然人の範囲を「自然人及びフィギュア」にすればこの問題は見事に解決し、キャラクター、正確に言えばフィギュアとの婚姻は可能となる。おおっ、道が開けてきたぞっ!




まだまだ高い法の壁

 さて、こうして無茶な論理や仮定に仮定を重ねた結果としてようやくそのキャラクターとの結婚生活を送ることが可能となった。我ながらなんともきがくるっとるとは思うが、キャラクターと婚姻した上で、実際にそのキャラクターと生活を送れるのであればここまでしなければならないのだ。無茶をかなえようとしている以上、こちらの無茶にも多少は目をつぶっていただきたい。



 しかしながら、ここまでしてもまだ関門は待ち構えている。先ほど6人をあげて比較検討した時にふれたとおり、以下の「婚姻障害事由」にひとつでも当てはまれば婚姻は不可能である。

1、婚姻適齢を超えていること(731条)
2、重婚の禁止(732条)
3、再婚禁止期間の経過(733条)
4、近親婚(734条〜736条)
5、未成年の場合親の許可(737条)

 
 このうち、3は未亡人キャラでもない限り問題にはならないし、4も現時点ではキャラクターと血がつながっている自然人が存在しない以上関係ない。5の親の許可については許可がないまま婚姻届を提出しても受理されれば有効である、ということで省く。


 ここでも問題となるのはやはり婚姻適齢だ。普通の婚姻ならほとんど問題になることはないのだが、何せ、彼らが嫁にするのは大概若い(幼い?)女性なので、このような問題が生じるのである。


 そういった条件もクリアしても、婚姻を行うためには「婚姻と見られる共同生活体を成立させようという意思」が必要である。なんだか難しいが、要するに夫婦として、あるいは家族として過ごす意志がないと婚姻はできないということだ。

 ラジオ会館海洋堂のショップにおいてある等身大のキャラクターフィギュアを眺めながら「俺の嫁だから婚姻する!」といったところで、婚姻は成立しない。

 家族として同じ屋根の下で過ごす意思がないからだ。


 そのためちゃんと婚姻しようとすれば、海洋堂でそのキャラクターを買って、それを家に持ち帰る・・・もとい、我が家にお出迎えしてから婚姻届を提出する、という流れになる。

 家に等身大のフィギュアがデーンと鎮座することになるし、飯も作ってくれなければ掃除もしないなど嫁(主婦)としての本来の職責も果たさなければ、働きに出て稼いできてくれることも当然ないが、深い愛さえあれば何とか乗り越えられるだろう。


 ここまでしたのだから、諸兄の健闘が祈られるところである。



キャラクターに人権は認められるのか?

 ところで、ここまでフィギュアをモノとして表現してきたが、フィギュアも自然人として規定してしまった以上、ちゃんと自然人と同格の権利能力を有する。言い換えれば、普通の人と同じ人権が保障されるということである。


 民法で認められる「基本的人権」だの「社会権」だのといった権利が普通の人と同じように認められるわけだし、フィギュアを意図的に傷つけたならば当然に刑法も適用される。
 つまり、お金を払ってフィギュアを買い、我が家にお出迎えをして婚姻する、ということは人身売買に当たり、犯罪となるはずである。


 ・・・なんだか、急に雲行きが怪しくなってきたぞ。


 先程は滋賀Y太真っ青な鬼畜行為をやっても大丈夫!と言ったが、それはあくまで彼女たちがあの段階では「モノ」だったからである。

 自然人となった今となっては話は別。前述の人身売買もそうだし、先ほど書いたようなフィギュアにあんなことやこんなことしちゃう人などは、皆強制わいせつ罪や強姦罪が適用されてしまい、全員お縄である。

 また、他のキャラクターのフィギュアを所持・・・もとい、同じ屋根の下で暮らすことはほかならぬ浮気に当たる可能性もあるので、ごく一部の親族を除きそれらのフィギュアとは何らかの形で縁を切らなければならない。

 しかし、それらのフィギュアにも人権があるわけだからそこらに打ち捨てることはできないし、売ることもできない。


 どうすりゃいいんだかわからないが、とにかく縁を切らなければ嫁とのケンカが勃発するのは間違いないし、浮気に当たるので、立派な離婚事由(離婚することができる原因)となってそのキャラクターから縁を切られる羽目になる。

 そうすれば莫大な慰謝料が発生し・・・・ってまてよ。


 離婚を提起しているということは、そのフィギュアには意思能力、つまり自分の身の振り方を決め、判断を行う能力がある、ということに他ならない。そうでなければ行為能力は認められず、現行の法律では成人被後見人と言うことになってしまう。

 一応、成人被後見人にも結婚相手を選び、婚姻する意思さえあれば婚姻できるし、判例にも「意識を失う前に婚姻の意思を示したのなら、特別の意思表示がない限り翻意(婚姻の意思がないと表明)したとはみなされない」というのはあるので、今この段階で意思表示できなくても婚姻できるメはあるかもしれない。


 ただ、そもそも意思表示ができないのなら婚姻の意思を示すこと自体難しかろうし、作中でもほとんどのキャラクターはちゃんと意思能力を持っている。

 ということで、これらのキャラクターにはたぶんそれなりの判断能力(意思能力)はあると見るべきだろう。そして、婚姻には相手方の意思、というか承諾が必要になる。


そうなると、そもそも今「俺の嫁!」とか言っている人たちはそのキャラクターと結婚するために同意を取り付けることができるのだろうか?



二次元も三次元も同じだなんて、絶望したっ!


 先ほどはあえて触れなかったが、結婚しようとすればもう一つ条件をクリアする必要がある、すなわち、2の重婚の禁止である。

仮に、同じキャラクターフィギュアが複数存在するとすればこれらの規定は問題とならない。同じキャラクターのフィギュアは数千、場合によっては数万もあるのだから、その数だけキャラクターと結婚できる人が存在することとなる。

民法にはクローン人間のような同一の見た目と人格を持つ人の存在を規定していないからこんなことになるのだが、それではもし民法の規定を厳密に適用し、キャラクターは唯一にして絶対であり、キャラクターは一人しか存在しない、ということにしたらどうなるか。


そうなれば、キャラクターが一人しかおらず、重婚もできない以上、そのキャラクターと夫になれるのはわずか一人、ということになる。


 今、俺の嫁と言っている人たちはそんな状況下でもなお、そのキャラクターの愛を勝ち取り、婚姻の同意を得ることはできるのだろうか?



当然、キャラクターの人気も千差万別なわけだから、人気が集中している特定のキャラクターの愛を得るための争奪戦ともなれば、そのキャラクターの夫となるべくすさまじい競争が発生してしまい、まさに血で血を洗う凄惨な光景がそのキャラクターの眼の前で繰り広げられることとなるだろう。


そんなプライベートライアン真っ青の光景を見て,そのキャラクターははたして正気のままでいられるのだろうか?


 それでも、純粋に競争の結果夫が決まるならまだいい、数千数万の夫候補の中の一人は、見事そのキャラクターと結婚することができるからである。問題は、そのキャラクターが完全に自分の意志で夫を選ぶ場合である。そのキャラクターに意思能力がある以上、当然自分の夫となる人物をえり好みするだろう。

 そうなれば、容姿端麗でない人々は、まず顔面審査の段階でバッサリ切り捨てられてしまう可能性が高い。つまり、現実と何ら変わらない。現実は非情である。


 第一、キャラクターのすべてに自然権を認めた以上、当然女性のみならず男性のキャラクターにも当然結婚する権利が与えられているのである。
 現実に存在する男性よりもはるかに魅力的な彼らとの競争に勝ちえない限り、そのキャラクターの愛を得られることはできないわけだ。


 キョンハルヒのような定番カップルの間に入れるか?あらゆるエロゲのヒロインとその主人公の間に入れるか?いずれもかなり難しいだろう、そもそも、本来であれば普通の人はそういったヒロインたちとは、作品以外に接点がないのである。


そうなると、結局あぶれたキャラクターが出てこない限り同人誌のカップリングみたいに、二次元は二次元同士でくっついちゃう可能性も十分考えられる。というよりそうなるのが普通と考えるべきだろう。そうなると、そのキャラクターを自分の嫁にするには、親密な関係となっている同性のキャラクターを押しのけ愛を勝ち取る必要がある。

 やっぱり現実と同じじゃないか!

かといって、そのようなことが起こらないように女性か男性のどちらかにのみを自然人と認めるのは明らかな憲法違反である。憲法には男女差別を明確に否定した有名な条文があるからだ。


 日本国憲法14条(法の下の平等
 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、心情、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない


 憲法でこう定めている以上。認めるなら両方認めないといけない。

結局、キャラクターにムリヤリ自然人としての権利を付与して結婚できるようしても、現実の恋愛と何ら変わるところはない。
二次元が相手だろうが三次元の相手だろうが恋愛はシビアである。こんな現実を見せられてしまったら、ビッチビッチと三次元の女性を唾棄し、二次元の女性を愛してやまない男性なんかは生きがいを失ってショック死してしまうかも知れん。


 やはり、下手に結婚しようなんて考えず、クリスマスにディスプレイ越しにクリスマスパーティして、そのキャラクターと結婚している気分を味わっているほうがよほど幸せかもしれないなぁ、と思った今日この頃である。


(参考資料)

大学で買わされた民法テキスト

空想法律読本

空想法律読本2

空想歴史読本

デイリー六法2007


署名TV

「2次元キャラとの法的な婚姻を認めてください」
 (http://www.shomei.tv/project-213.html#detail


痛いニュース(ノ∀`)

「日本政府に対し「二次元キャラとの結婚を法的に認めて下さい」という署名活動が実施 」
    (http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1187205.html


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        ・民法
        ・特別住民票